用途別解説:リバーブ設定の基礎

現代的なレコーディングを補うために、ミックス段階でリバーブを使う事は一般的です。しかし、機種によっては多くのパラメーターを備え、初心者には分かりづらい部分が多いのも事実です。この記事では、目的別のリバーブ設定方法を見ていきましょう。

リバーブは空間を司るエフェクトです。

ディレイも同じように「空間系」と言われますが、部屋の広さや複雑な反響音といった「空間そのもの」を表現できるわけではありません。

リバーブは現実の空間における音の響きを人工的にシミュレートし、近接録音など部屋鳴りの乏しい音源に説得力あるリアルさを付与する為に、元々作られた機材です。

しかし現在ではこの様な使い方を越えて、様々な目的で音楽プロダクションに用いられています。

本記事ではリバーブの活用例をいくつか紹介していくと共に、各手法におけるポイントや、注意点も同時に見ていきます。

関連記事:ボーカルの空間を大きくする:リバーブとディレイの応用法

リバーブの設定①:音を空間になじませる

現代のレコーディングは重ね録りが主流で、一つの部屋で一発録りという様なアプローチがとられる事は少なくなっています。

重ね録りのメリットとしては、録音中の演奏ミスによる全体へのダメージが少ない事や、他楽器からの「カブリ」を排除した「クリーンな音」が録れるから、という点があります。

これによってミックス時の位相問題を回避出来たり、仮に歌唱や演奏に問題があった場合でも、他セクションへの影響を気にせず編集作業を行えるという訳です。

しかし一方で、各パート奏者を隔離して個別に演奏を収録するという事は、それぞれの録音に空間的なつながりが無いという事にもなってしまいます。

例えば、同じ部屋での一発録りであれば、ギターアンプのマイクにはどうしてもドラムのカブリが入ってしまいます。しかし、こうしたカブリは位相問題などの原因にもなり得る一方で、「楽器間の距離」などを表現する有機的な要素として、楽曲にリアリティやエネルギーを付加してくれます。

クリーンな個別のレコーディングでは、この様な演奏者間にある相互作用的な「空間」は収録されず、得てして平面的な音になりがちです。

最初に紹介するリバーブの使い方は、こうした平面的な音に、立体的であたかも自然な奥行きを補おうとする際に役立つものです。

音を空間になじませるのに適したリバーブの見分け方

リバーブ・プラグインにはいろいろな種類があり、豊富なパラメーターで多様な音作りが可能なものもあれば、音の方向性が初めから決まっていて、その中で非常に限定的な調整しかできないものもあります。

今回は「デッドな音にあたかも自然な空間要素を付け足したい」という目的があるので、基本としては「自然な空間」の表現に優れたリバーブを選択していく事になります。つまり、リバーブが掛かっている事が悟られない程の透明感が要求されるため、設定を追求する以前に、そもそもそういう傾向をもったリバーブを選択する必要があるという事です。

その意味では、「人工的な音」が魅力となっている様な自己主張性の強いリバーブ、例えば、プレート・リバーブやスプリング・リバーブといった種類は、特に考えが無い限り選択肢からは外した方が無難だと言えるでしょう。

Universal Audioによるプレートリバーブのシミュレート・プラグイン、"EMT 140"
Universal Audioによるプレートリバーブ”EMT 140″のエミュレート・プラグイン。270kg以上ある実機は、巨大な金属のプレートを振動させる事でリバーブ音を人工的に生成した。1957年登場。

また、同様の理由から、極端に金属質的な音のするものや、コーラス的なピッチシフトなどが目立つ機種も、避けた方が良いかもしれません。

AUXセンドを経由して利用する

楽曲を構成する複数のパートが、空間上で互いに有機的な繋がりを持つようなリバーブを設定するのが、今回の目的です。

こうした場合は、パート毎に別々のリバーブを掛けるよりも、一つのリバーブに複数のパートを通過させる方が理に適っています。

DAWに備わっている「AUXセンド」という機能を使えば、一つのAUXトラックに挿入したリバーブ・プラグインを、必要に応じて別々のトラックにアサインする事ができます。

ProToolsには「バス」という概念があるので、例えばボーカルやドラムといった「オーディオ・トラック」の「センド欄」に「バス3」を設定して、リバーブ・プラグインを挿入したAUXトラックの「インプット」を「バス3」に設定すれば、元々のオーディオ・トラックのアウトプットに干渉することなく、好きな配分で原音をリバーブと混ぜる事ができます。

ProTools:バスを経由したAUXトラックへのリバーブ・センド
「バス3」などという表記から、任意の名前に変えることも出来る。画面では、「Reverb 1」という名前に変更済。

自然な空間を表現するための設定

リバーブの種類を決め、AUXセンドを設定した後、まず最初に理解していなくてはならないのは、全パラメーター中、「空間の広さの表現」に最も強い影響を持つのは「プリディレイの設定」だという事です。

試しに、他のパラメーターを最小値、またはオフにした状態で、プリディレイだけを上げていきましょう。プリディレイが空間の広さに対して持つ効果が聴きとれるでしょうか?

一般に、空間を構成する壁が耳から遠い場所にあるほど、初期反射音の耳への到着は遅れます。プリディレイの原理はこの事と同じで、長い値にすればする程、人の耳により広い空間を錯覚させることができます。

広めの空間にしたいのか、割と狭い部屋にしたいのかによって、プリディレイの値を調整していきましょう。音を空間になじませるという事だけが今回の目的ですので、設定する値としては10ms~30ms程度の幅を念頭にスタートしてみるといいでしょう。

Waves "TrueVerb"における、ルームサイズとプリディレイの連動機能
Wavesの”TrueVerb”。デフォルト状態では「Room Size」と「Pre Delay」が連動しており、中央の矢印ボタンを押下してはじめて、個別に設定を調整する事ができる。

また、機種によっては左右のステレオ感を調整するための「Width」や「Spread」というパラメーターが用意されている場合があります。通常は100%ステレオのままで構いませんが、ミックスの方向性として意図的にステレオの幅を狭くしたいなどの場合は、必要に応じて調整しましょう。

Sonnox "Oxford Reverb"におけるステレオ幅調整機能
Sonnoxの”Oxford Reverb”では、インプット段階(STEREO SEPARATION)とリバーブ内部(WIDTH)の2か所で、ステレオの幅を制御する事ができる。

最後に、よくあるパラメーターとして”Diffusion”、”Decay”の設定を行います。

“Diffuse”というのは「拡散、反射する」位の意味で、値が大きすぎると空間内での音の反射が過多になり、結果的に情報量の多すぎるリバーブとなるので、「目立たないリバーブ」という今回の目的からは遠ざかってしまいます。

“Decay”は「減衰」を意味する語で、近いニュアンスを持つパラメーターとしては、”Tail(尻尾)”などがあります。基本的にはリバーブ音の切れる早さを表していて、あまり短いと不自然になってしまいますが、長すぎてもリバーブ音の主張が強くなってしまい、全体的に曇った音質になりかねません。

いずれの値にも「特にこうするのが良い」というガイドライン的なルールはありませんが、初心者であれば「15%~40%位の値」という事を念頭に、変化を感じながら自由に調整していくのも、スタートとしては良いかもしれません。

原音とリバーブ音を住み分ける為の工夫

リバーブの音質によっては、WET音が原音と何らかの不快な干渉を引き起こし、全体的なクリアさの妨げになる事があります。

リバーブ・プラグインの機能を駆使して問題を除去できれば良いですが、より手っ取り早い方法としては、リバーブの前後に適切なプラグインを挿入する方法があります。

例えば、EQによる特定周波数帯域のカットは、リバーブのWET音と原音の干渉を除去するのに最適です。

関連記事:サージカルEQの裏技:「EQ3 7Band」で特定の周波数帯をソロにする方法

ローパスフィルターやハイシェルヴィングを活用すれば、リバーブの明る過ぎる成分を適度に抑制し、自然な室内残響を再現する事ができます。ハイパスフィルターやローシェルヴィングで、リバーブ音の不要なローエンドをカットする事も、よくあるアプローチの一つです。

Universal Audio "Massenburg EQ"によるリバーブ音のカット
EQはリバーブの前にかけるのと後に掛けるのとでは、同じ設定でもまったく効果が異なる。

また、原音のトランジエントがリバーブ音の中で目立ち過ぎてしまう場合、リバーブの前にトランジエント・デザイナーを配置する事で、問題をうまく回避できることがあります。

Universal Audioの"SPL Transient Designer"によるリバーブ・アタックの制御
トランジエント・デザイナーは各社からいろいろなものが出ているが、Universal Audioの”SPL Transient Designer”は非常にすぐれたアルゴリズムで、どんなソースのアタックやサステインでも、容易かつ緻密に制御する事ができる。

リバーブの音作りの途中でAUXトラックのミュート・ボタンを活用し、リバーブ音をオン・オフを何度も確認してみる事も重要です。

オフからオンにした時、「音像に豊かな奥行のダイナミクスが生まれるものの、リバーブ自体の存在は聞き取れない」という状態になれば、一先ず設定が成功したと言えるでしょう。

リバーブの設定②:空間を広げる

空間を広げる為の設定では、①と比べてリバーブの「WET音」自体の効果や存在が明らかです。

機種の選択方法としては①とほぼ同じ方針で構いませんが、パラメーターにおいてはプリディレイの他に”Decay/Tail”を長めに設定する事が重要になってきます。

空間を広げるという今回の目的を考慮すると、「フワッとした遅い広がりのある音質」が一般的に目指すべき方向性となりやすいので、その意味で最初のハードルとなるのは、原音由来の「早いアタック」の扱い方です。

プリディレイと”Decay/Tail”の設定

空間を広げ、全体のミックスの中で無理のない存在感を作り出すには、原音由来のトランジエントがリバーブ音に乗った時に、なるべくフワッとしたソフトなアタックを描くようにデザインしていかなければなりません。

その為に有効な手立ては、まずプリディレイを遅く設定する事です。大体50ms以上を目安に、しっくりとくる所まで上げて行くと良いでしょう。また、グリッドに忠実な曲であるなら、BPMを参考にプリディレイを設定していくのも一つの手です。

曲の感じにもよりますが、BPMとプリディレイがリンクしていれば、リバーブのアタック音が、原音の次のアタックとうまく重なってかき消されるため、聴感上、アタック感が軽減される事が期待できます。逆に、曲がグリッドに沿っておらず、曲のテンポが演奏者の塩梅で前後する様な場合は、この手法はあまり使えません。

一方、”Decay/Tail”の設定には特にこれといった目安がありません。曲の目指す方向によってはどれだけ長く設定しても構いませんので、存分にセンスを発揮しましょう。

ただ一点注意すべきポイントとしては、機種によって”Decay/Tail”の音質の傾向が、まったくと言って良いほど違うという点です。長い設定にしても、他の音を一切邪魔しないような柔らかで高級感のあるリバーブもあれば、一気にミックスを曇らせてしまうような扱いづらい機種もあります。

Universal Audio "EMT250"
Universal Audioの”EMT250″。非常に優雅かつ自然な音の減衰が特徴で、どれだけ長いリバーブに設定しても、ミックスを容易に曇らせる事は無い。

どの機種も使い方によっては毒にも薬にもなるので一概には言えませんが、この点については、値段とCPU負荷の2点に比例して自然さのクオリティが上がっていく様な気が、個人的にはします。

とは言いつつも、最近は各社共にセールをちょくちょくやっている様なので、良いものを比較的安価に買い求める事もできます。

例えば、WavesのH-Reverbは品質におけるトップ候補の一つと言って良いほど、クリアかつ優雅な残響音に定評のある機種ですが、Wavesの公式サイトでは度々セールの対象品になっている様です。これから何か一つ素晴らしい品質のリバーブをコレクションに買い足したいという事であれば、間違いなくオススメしたい機種です。

Waves "H-Reverb"
Wavesの”H-Reverb”は数多くのパラメーターを備えており、中には「Build Up」などのユニークな物も含まれているにも関わらず、非常に直感的で分かりやすい作りになっている。音質においても全く自然なものからクリエイティブなものまで、大変高品位かつオールマイティにこなすことができる。

リバーブ音の調整における注意点

長い設定のリバーブでは、自ずとミックスの他の部分との干渉が大きくなるため、全体としてクリアな音像をきちんと担保できているかについて、常に気を配らなければなりません。

EQの具体的なテクニックについては、①で紹介したものを応用していく事になりますが、特にベースのリバーブ・センドは、控えめなレベルを心がける様にしましょう。ハイパスフィルターでの対処を念頭に置いたとしても、基本的にベースのリリースが低音域でブンブンと木霊している状況は、特にそうした効果を狙っているとき以外、ミックスにとって、あまりよい結果はもたらしません。

Waves Q4 イコライザーによるリバーブ音のカット
EQのカットについてはこれといったルールは特に無いが、目指す効果に貢献していない部分を的確に判断し、容赦なく排除していく正確性が求められる。

同様の事は、はじめからリリースの長いパッドの様なパートについても言えます。長いリバーブのせいで、コードチェンジの度に音程がズレて聴こえるか、ミックスが全体的に曇って聴こえるか、いずれかにしかなりません。

また、Decay/Tailの長さは、個別のトラック側でAUXセンドをどれだけ上げられるかに強く関わっています。必要以上に長いDecayを設定した場合、それだけ他の音との不要な干渉が起き、EQを駆使したとしてもAUXセンドを必要なだけ上げられない可能性があります。

「まあまあ」の結果に辿り着くのは割と簡単ですが、「完璧」な設定については非常に細かな微調整が必要です。

①で紹介した様なAUXトラックのミュート・ボタンのオン・オフなども駆使して、ミックス全体に対してリバーブが何をもたらしているのか、良いのか悪いのか、悪いのであればそれは何なのか、よくよく耳を傾けるようにして下さい。

リバーブの設定③:エフェクトとしての利用

これまで見てきた2つの設定は、自然でなるべく目立たない残響音を人工的に作り出すためのものでした。

今回の開設で最後となる3つ目では、原音に変化を加えるための「エフェクト」としてのリバーブを扱います。具体的には、ミックス中で特に目立たせたいボーカルなどのパートに有用となる設定です。①②では「自然な音色」が特徴となる、あえて音色の目立たない機種を選択しましたが、今回は逆で、なるべくキャラクターの立った音色を持つ機種を選びます。

関連記事:耳に痛いボーカルをミックスで改善する方法

人工的な響きであったり、単体で聴いたときに不自然であっても、全体と混ぜた時に求める音色になっていれば良しという姿勢で、ガツガツと新しい音を攻めていきましょう。

古いプレート・リバーブやスプリング・リバーブのエミュレーション、安いバンドル系のリバーブや、無料のプラグイン、何でも思いつく限り試してみると良いでしょう。

ProToolsの付属プラグインD-verb
ProToolsに付帯する基本リバーブとして有名な”D-Verb”。いわゆる「D-Verbらしい音」がする一方で、ボーカルとの相性は抜群に良い。

AUXトラックを使うべき?

空間を表現するための自然なリバーブでは多数のトラックからの信号をまとめて扱いましたが、エフェクトとして使うリバーブに関しては、限られたトラックを目立たせる為の特殊効果という目的上、あまり数多くのトラックに同時に掛けてしまっては、本末転倒になってしまいます。

センドレベルのオートメーションなど、依然としてAUXトラックを利用する意味は多いにありますが、複数のトラックにセンドをアサインする場合は、そうしなければいけない意味が本当にあるかどうか、よくよく考えるようにしましょう。

音作りのヒント

プリディレイや”Decay/Tail”は、求めるエフェクトの方向性やセンスに従って自由に決めるべきですが、それぞれの基本的な役割は①②で見てきた内容と変わりません。

奥行を表現したければプリディレイ調整し、空間を広げたければ”Decay/Tail”を大きな値にしていく事になります。

リバーブ自体に機能として備わっている”Spred/Width”や、DAW側のパンの設定を狭くしてみるのも、ミックスをスッキリとさせる一つの方法です。パンについては、軸を原音と合わせてみたり、敢えて真逆の位置に配置したりと、色々なアイデアが考えられます。

また、リバーブをエフェクト的に使う場合、ミックスでの聴こえ方が派手になる分、原音と混ぜた時の全体的な音量の増加にも注意してください。

基本的には、エフェクトを混ぜた時に、混ぜる前の原音と同じくらいの音量になる様設定すべきですが、AUXトラックのミュートボタンでエフェクトの有る無しを切り替える際には、ボタンをオンにした時、音量が上がっている事を織り込んだ上で、音の良し悪しを判断する様にすると良いでしょう。

最後に

リバーブの設定は楽曲次第で本当に何通りもあり、時にはこれまで見てきたような話が一切関係なくなる様な事だっていくらでもあります。

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初心者の方に向け「一般的な話」をするにしても、この記事が皆さんの創造性を制限してしまう様な事が無いか、説明の表現を選ぶに当たって非常に骨を折りました。

リバーブの基本と言われれば個人的に思いつくのはこんな所ですが、どうかこの記事の内容に手足を縛られたりせず、あくまで踏み台として利用したなら、ぜひ自由な発想を持ち早い段階で自分だけの音作りと向き合ってみてください。