s/nが高いほど、クリアで忠実性の高いレコーディングができる
機材のレビューなどでよく「s/n比が~」という表現を見たことがあるかと思います。s/nは「signal to noise ratio」のことで、日本語では「s/n比(えすえぬひ)」と読みます。レコーディングをするときは必ずノイズの影響を考えなければなりませんが、簡単に言うと、s/nとはノイズの聞こえ方に関する指標で、この数値が高いほど肝心のオーディオに対してノイズが目立たなくなる事を示しています。
音質という意味で、音の最初の入り口となるステップはレコーディングです。なので、原音に忠実でなるべくクリアな音質を目指したいと思う場合は、この段階からなるべく高いs/n(目立たないノイズ)を実現しておく事が望ましいということになります。今回のテーマである「16bitと24bitのどちらがどう良いのか」という問題は、実はこのs/nという概念と深く関係しています。
ダイナミックレンジとノイズフロアの関係性
16bitと24bitの音質面での一番の大きな違いはダイナミックレンジの違いです。
ダイナミックレンジというのは一番小さな音と一番大きな音の差を表す表現ですが、レコーティングビット数におけるダイナミックレンジと言えば、「オーディオの解像度」だと思って頂いて、大きな意味においてはほぼ差し支えありません。
16ビットのダイナミックレンジが96dBなのに対して、24ビットでは144dBという大きな違いがあります。オーディオ解像度が高いという事は、音のきめ細かさをより忠実に再現できるということの他に、「ノイズ対策」という点で、特に大きな意味を持ちます。
上の図にある「ノイズフロア」とは、機材から発生するバックグラウンドノイズが占める範囲をあらわしています。ダイナミックレンジが広いほど、ノイズの占める割合が小さくなります(s/nが上がる)。図では24bitレコーディングにおける標準的なノイズフロアとして、仮に-120dBと設定しましたが、この場合の実際に有効なダイナミックレンジは約120dBとなります。
ところで、人間の可聴範囲とされているのもちょうど120dB程度と言われており、一般的に「24bit以上のbit数で録音する必要は無い」とされるのは、この辺りがその根拠となっている部分です。時々、存在しないことを前提としたジョークで「32bitオーディオインターフェースは猫用だ」とかいう話を見かけますが、それはこういった事実が背景にあるわけです。
ちなみに、「32bit」と「32bit浮動小数点」というのはまったくの別物で、32bit浮動小数点と24bitは、レコーディングという点ではほとんど同じと思って差し支えありません。32bit浮動小数点のオーディオインターフェースは普通に売られています。
16bitの場合は?
一方、16bitレコーディングの場合はダイナミックレンジが24bitと比べてもともと小さい(96dB)ので、相対的にノイズの占める割合が大きくなります。結果的に、ダイナミックレンジの有効範囲は80dB前後になる事が多く、24bitの場合の120dBと比べると、s/nがかなり下がります。つまり、同じ大きさのノイズでも16bitで録音された時の方が24bitと比べて目立つという事になります。
ゲインステージングを意識した音作りを目指そう!
こうしたレコーディングの入口に注意を払う事は、「ゲインステージの管理(ゲインステージング)」と呼ばれる基礎的で重要な作業の一環です。
ゲインというのは、平たく言うと、音量のことをいいます。レコーディングからはじまり、音楽制作の各工程におけるゲイン管理をしっかりする事は、音圧管理やノイズ、ディストーションの少ないクリアな音楽を制作する上で非常に大切なことです。
ゲインステージングにはいろいろな手法がありますが、コンセプトさえ正しく理解していれば、特に難しいことでもないし、お金のかかることでもありません。
「クリアな音質」であったり、「音圧」という事で初心者の皆さんがよく惑わされるのは、このゲインステージングに関する知識があまり普及していない事が原因です。具体的な作業を伝えることなく「この機材やプラグインさえあれば大丈夫」だとか、「プロのスタジオが必要」だとか、「プロのミックスやマスタリングで全てが決まる」と刷り込む様な情報が氾濫していますが、きちんとした知識を身に付けて工夫さえできる様になれば、この内のいずれも全く必要ではなく、それこそProToolsに備わっている標準機能だけで十分すぎる結果が得られる事がほとんどなのです。
宅録環境の欠点に強い味方!VUメーターやRMSメーターを活用して、音圧管理に役立てよう!
24bitでレコーディングする方法
まず、オーディオインターフェイスとDAWがともに24bitに対応していることが大前提ですが、今どき普通のラインナップを選べば対応していないなんて事はほとんど無いので、どうぞ安心して下さい。両方の設定に必要な事を見ていきましょう。
オーディオインターフェイスの設定
オーディオインターフェイスは最近のものを使っていれば、ほぼ値段に関らず、何の設定もしなくとも24bitかそれに準じる設定でレコーディングするようになっていますので、特に気を遣う必要はありませんが、オーディオインターフェースのドライバーだけは正しくインストールするようにしてください。
特にWindowsユーザーの場合、ASIOドライバーでなく、ウィンドウズのデフォルトドライバー(WDM)を使用すると、オーディオインターフェースの能力をフルに引き出せず、自動的に16bitでの扱いになったりするなど予期しない不具合が発生するので、必ず正しいドライバーがきちんとインストールされているかどうか、確認するようにしてください。
DAWの設定
ほとんどのDAWと同じ様に、Pro Toolsの場合もセッションファイル作成の初期設定画面で、ビット数を設定できる項目があります。
ここで24ビットを選択すれば、設定は終わりです。あとは何もしなくても、DAWとオーディオインターフェースが全てのオーディオファイルを24bitで収録し、24bitとして扱ってくれます。
24bitはゲインステージングの最初の入り口
16bitと24bitの違いを通じて、更に大きな枠組みである「ゲインステージング」について知ってもらえたかと思います。
レコーディングにおけるゲインステージングのひとつは「ノイズ対策」ですが、ミキシング、マスタリングに至るまで、他にも様々なゲインステージがあり、その意義の捉え方や管理の仕方は人それぞれです。しかし、一度基本的な知識とコツが分かってしまえば、初歩的なことで頭を悩ますまでもなく、代わりにクリエイティブな事にもっと想像力や時間を使える様になります。
ゲインステージングのアプローチは人ぞれぞれですが、ゴールはひとつです。基本を踏まえて、このサイトでもたくさんの手法を紹介していきますので、自分に合うかどうか、ぜひ実践して試してみてください。