オーディオのテンポを計測する前に準備すること
ループ素材やwav、mp3などのBPMを調べるには、Pro Toolsの「テンポ検出」という機能を使います。「テンポ検出」を使う前提として、まずテンポを調べようとしているファイルが何拍子なのかを自力で判断する必要があります。
ポップスやロックの場合、大抵は4拍子か3拍子の楽曲が多いと思いますが、まれに変拍子の楽曲もあるので、その場合はカウントを間違えないように注意して事前に判断しておくようにしてください。ちなみに、4拍子や3拍子でなくては検出機能が使えないという事はありません。
次に、下準備として「コンダクタートラック」がオンになっているかを確認します。
コンダクタートラックは、セッション中でテンポの変更を出来る様にするかしないかに関る機能ですが、オフになっていると、「テンポ検出」が使えなくなります。
かならずONにしておきましょう。
画面上に「コンダクタートラック」のアイコンが表示されていない場合
まず、ツールバーの「ウィンドウ」から「トランスポート」をクリックします。すると、トランスポートウィンドウが表示されますので、一番右にある下向きの三角形の中から「すべて」または「拡張トランスポート」をクリックすると、「コンダクタートラック」にアクセスできる様になります。
「テンポ検出」に使うオーディオサンプルの範囲を決める
先ほども書いたように、まず拍がなるべく明確に分かる数小節間を探しましょう。Pro Toolsはこの範囲をサンプルとして、テンポを検出します。大体1~4小節あれば十分です。
また、後のテンポ確認作業のために、クリックトラックがあると便利です。ツールバーの「トラック」から「クリックトラックの作成」を選択して、いつでもクリックを使える様にしておきましょう。
準備が整ったら、テンポ検出に使うサンプルの範囲をカーソルで選択します。今回は1小節分だけ選択しました。
選択範囲の設定はなるべく厳密にした方が良い結果が得られますが、あまり神経質になる必要はありません。
選択範囲をループ再生した時に、自然にループされる程度を目安にすればだいじょうぶです。
いよいよテンポを計測しよう!
準備が整ったところで、実際にテンポを検出しましょう。まず、ツールバーの「イベント」から「テンポ検出」をクリックして下さい。
テンポ検出をする「スタート」と「エンド」の位置を設定するウィンドウが開きました。ここでProToolsに対して、「選択範囲を1小節とカウントする場合のテンポを教えてね」という設定をします。選択範囲が1小節なら「エンド」から「スタート」がちょうど1小節になる様に適当な値を入力して下さい。初期値は完全に無視して構いません。
ちなみに、拍子のデフォルト値は4/4になっています。サンプルの拍子が3拍子や5拍子などの場合は、値を変えて下さい。
設定が終わったら「OK」をクリックします。
検出されたテンポは「104.1629」…?
OKを押すと、新たなテンポが挿入されて、選択範囲の最初と最後がきっちりグリッドにあった状態になります。でも、挿入された新しいテンポを見ると、小数点バリバリの「104.1629」…。一瞬、「え?」と思いますが、間違ってないのでだいじょうぶです。この値は、先ほど手動で選択した範囲に基づいて算出されているので、もともとめったな事で無い限りきっちりとした数値にはなりません。大体の値を知らせるだけなので、タップテンポくらいの気持ちで捉えましょう。
とはいえ「104.1329」と言うことは四捨五入して「104.1」。つまり、きっちりとした整数のテンポが設定されているファイルなら、このオーディオのBPMは十中八九104で間違いないだろうという事になります。
これさえ分かれば、あとは念のために別の箇所でダブルチェックしてみても良いですし、これで十分だと思えば、挿入されたテンポを削除してから、プロジェクト全体のテンポを104に設定して、先ほど作ったクリックトラックに合わせて再生してみましょう。もしもテンポが違っていたら、後ろの方に行けば行くほど、カウントにズレが発生するはずです。
挿入されたテンポを削除する方法
テンポの左横にある小さな下向きの三角形を、WindowsならAltキーを押しながら、Macならoptionキーを押しながらクリックすると、該当のテンポを消すことができます。
コンマ5など、繰り下げるべきか繰り上げるべきかの判断に困る数値が出た場合
仮に今回の様に104.1とキレイにならずに、104.8と出たとしましょう。.8なら、多少は引っかかるのですが、まあ繰り上げて105だと判断し、メトロノームチェックで裏を取るのが順当だと思います。同様に、104.3なら、まあ大体は104だろうと見当がつきます。問題は、ちょっと判断に困る「.4~.7」のレンジで数値が出たときです。そんな時は大きく分けて3通りのシナリオを想定しましょう。
①範囲の設定が甘かった場合
先ほど範囲の設定については「ループ再生して自然に聞こえる程度でよい」と言いましたが、その辺りがクリアされているか、もう一度チェックしてみましょう。
それとあわせて、設定した拍子が間違っていないか、そもそもその拍子で本当にあっているか、念のためもう一度確かめてみましょう。
②BPMがもともと半端な数値である場合
時々、こだわりのあるファイルなどで、BPMが117.5などのコンマ5などの数値に設定されていることがあります。特に、BPMが存在してしかるべきループデータなどで、「110だと遅すぎるけど111だと速すぎる」などの状況に出くわした場合は、このケースを疑ってみる必要があります。
ちなみに、さすがに小数点2位以下で細かく設定されていることは無いと思うので地道に探っていくことも出来ますが、もし製作者に連絡が取れる場合はいっそのことたずねてみるのが一番早いかもしれません。
③そもそもクリックを使って録音されたオーディオでは無い場合
意外と一番多いパターンですが、こればかりはどうしようもありません。今あるプロジェクトにカッチリ合わせたいのか、そのままテンポの揺れを生かして使うのかを決める必要があります。カッチリあわせたい場合は、ProToolsの「エラスティック・オーディオ」機能が役に立ちます。特にドラムなどのパーカッシブなトラックであれば作業もラクです。
初心者でも簡単◎イマイチな生ドラムのタイミングをスマートに一発調整する方法
また、個人的な経験則ですと、ジャンルにもよりますが、洋楽はBPMに揺れがあるケースが多いです。これはプレイヤーやシンガーがクリックやグリッドから解放されて、緩急をつけながら自由に演奏する為に、敢えてテンポ自体を目安程度にしか捉えていない事に起因しています。特に、一発録りやそれに近い環境で録音された作品は、その傾向が強いです。
この記事のテーマからすると身も蓋も無い話ですが、DAWで音楽を製作する上で「グリッド」という概念をどう意識するのかという事自体、議論が広がりそうな大変面白いテーマです。皆さんもDAWの機能を知る一方で、その機能が音楽にとってどんな結果をもたらすのか、立ち止まって考えてみるのも非常にクリエイティブな行為だと思います。
ツールに縛られること無い自由な発想で、ぜひ素敵な音楽作りに励んで下さいね。