ギターアンプをレコーディングする3つの手順

エレキ・ギターをしっかり録音するには、①音作り、②チューニング、③適切なマイキングが、必要不可欠です。この記事では、最初から欲しい音をドンピシャで録る為のポイントを、手順ごとに詳しく追って行きます。

手順① 音作り

ドラムのレコーディングの時も書いたのですが、毎度のことながら、ここですべてが決まります。

関連:泥臭いアメリカーナ・ドラムを録るための5つの手順

「プロツールスで後から何とでもなるんでしょ?」と思うかもしれませんが、何ともなりません。

プロツールスは、切ったり貼ったりしてミスを隠すことはできても、録った後でアンプのゲインノブを3から4に変更したり、ピックの分厚さやピッキングニュアンスを再現するという様な、根本的な音質の改変はできません。

音作りに失敗したら録り直すしかないので、レコーディング前の段階で100%納得の行く音を作る様に心がけましょう。

演奏法の追求

ギターの音作りでよく「音の太さ」という問題があります。

エフェクターやアンプが関係する部分も、勿論ありますが、それでも目的とする音が得られない時は、演奏法を変えてみるのも手です。例えば、ピックの分厚さや、ピッキングのスタイルを変える、音が思った方向に改善する場合があります。

基本的には弦に対してピックの接触面が少ないほど低音成分の欠落した、細くピーキーな音になりやすいので、弦との接触面が自動的に増える分厚いピックに持ち替えれば、結果としてアタックが丸くなり、ボトムの豊かな「太い音」に近づく可能性があるというわけです。

ダンロップ・エリック・ジョンソン・クラシック・ジャズIII・ギター・ピック
ダンロップ・エリック・ジョンソン・ジャズIII・ギターピック。かなり小型だが、適度な分厚さとなめらかなカーブにより、手元でのトーンコントロールがしやすい様にできている。

更に極端な改善案としては、指弾きという選択肢もあります。

例えば、ジェフ・ベックのギターは独特の丸味というか「枯れた感じ」を持っていますが、彼は80年代末期以降、一貫してピックを使わないフィンガリング奏法を採用しています。

指で直接弦を弾くと、分厚いピックとは全く違う方向性の「太さ」を得る事ができますので、ピックでダメな場合は試してみる価値があると思います。

また、同じような観点から、弦のゲージを太くするという手段もあります。

たとえば、ジミ・ヘンドリクスの1弦のゲージが.010だったのに対して、スティーヴィー・レイ・ヴォーンの1弦は、.013だったと言われています。これは結構な太さですよ。指に食い込んで、慣れるまでは痛さと弾きづらさを感じると思います。

しかし、ギターの音がそもそも弦の振動からくることを考えると、弦自体のゲージを変えるというのは、非常に理にかなった音作りのアプローチです。

弦もピックも、ギター本体に比べれば、微々たる投資額で違いを確かめる事ができるので、もし状況が許す様であれば、積極的に実験してみる事をオススメします。

スティーヴィー・レイ・ヴォーン
スティーヴィー・レイ・ヴォーンの弦のゲージは.013 / .015 / .019p / .028 / .038 / .058であった事がほぼ分かっている。これは彼が影響を受けたジミ・ヘンドリクスの弦ゲージ.010 / .013 /.015 / .026 / .032 / .038と比べても、圧倒的に太い。

空間の追求① アンプの壁からの距離

これは後の「手順③」詳細に述べるマイキングとも大きく関わる部分ですが、部屋内でのアンプの配置にも気を遣いましょう。

特にオープンバック・アンプに関しては、アンプの真後ろに壁があるのと無いのとでは、レコーディングの結果に大きな違いが表れます。

音量にもよりますが、アンプの位置が壁から1m位のポイントを境に、特に低音において明らかな音質の変化が現れ出します。変化の傾向としては、基本的に壁に近いほど「モコモコした低音」、もしくは「パンチのあるボトム」が増加します。

目指す音の傾向により、壁とアンプの関係をどう音作りに利用するのかは、完全に好みの問題です。

空間の追求② 部屋の性質

部屋のサイズ、天井の高さ、壁や床の材質によっても、音の鳴り方は大きく変わります。

例えば、「小さな部屋は音がこもって聴こえる」という現象がありますが、これは音源から出発した音が部屋中に乱反射し、充満した結果、マイクに錯綜とした情報が届く事が原因です。

対策としては①音量を下げるか、②広い部屋に移動する、または、③吸音材の様なものを音源に対して効果的に配置する、という事が考えられます。

また、音の反射は壁や床の材質によっても影響を受け、硬い材質程、音を良く反射します。

よく木でできた部屋が「音響特性に優れている」と言われる理由は、木材が持つ「音を吸収する」という性質と、表面のデコボコが「音を反射する」という、相反する特性を併せ持っているため、人間の耳に馴染みの良い反射音を作り出す事ができるからです。

こうした音の持つ特性をよく理解すれば、身の周りにあるラグマットやメタルラックひとつでも、室内残響音を積極的に「音作り」する事ができます。

カーペットによる室内残響音のコントロール
アンプの真下にカーペットを敷いたり、メタルラックの上に置くことで、床からの反射音をある程度コントロールする事ができる。

手順② チューニング

チューニングは何かと軽視されがちですが、曲全体のクオリティに関わる大切な問題です。

しかし、同時にかなりの繊細さを要求される行程でもあるので、神経質に突き詰めすぎると、どつぼにハマって気が狂いそうになる人も中にはいますが、正確性をとことん追求するにしろ、ある程度の揺らぎをOKとするにしろ、レコーディングする立場の人間としては、状況を理解した上で、目的意識をもった判断を下さなければなりません。

ということで、重要と思われる点をざっと見ていきましょう。

ギターを「なるべく」完璧にチューニングする方法①

ギターをチューナーでチューニングしていると、一旦は合うけどその後針がグラグラ動いたり、合わせるたびに別の弦がズレだしたり、なかなか「完璧」に至らずイラついたという経験は、誰しもあるかと思います。

しかし、ここで血も涙もない現実の話をすると、それもそのはずなんです。エレキ・ギターを完璧にチューニングするのは、そもそも不可能だからです。

これは冗談ではなく、フレットの付いた弦楽器の構造上の問題なので、時を無駄にしない為にも、どこかで「ある程度は仕方ない」と割り切る必要があります。

、、、ということを踏まえた上で、これから「なるべく完璧に近いチューニング」を実現する為の方法を見ていきます。まず基本から行きましょう。エレキギターはすでにチューナーにつないだ状態です。

1.ギターの「トーン・ノブ」をゼロにする。

こうする事で、余計な倍音の発生を防ぎ、基音だけをキレイな状態でチューナーに送る事ができます。

2.ピックアップ・セレクターをネック・ポジションに合わせる。

通常、ブリッジ側のピックアップに比べ、ネック側のピックアップの方がより純粋な基音を拾う傾向があります。でも、ギターの構造によってはそうでない場合もあるので、チューナーの反応が悪い様であれば、別のピックアップも試してみましょう。

3.弦を12フレット上の位置でつま弾いて、6弦から1弦の順にチューニングする。

12フレットの位置でチューニングする事によって、発生する倍音が基音のオクターブ音となり、チューナーの混乱を防ぐことができます。

楽器で鳴らした音は、通常、「基音」と呼ばれる基本音の他に、「倍音」という音が含まれます。

例えば、「A」の音を鳴らせば、基音であるA音の他に、第2倍音、第3倍音と、第4倍音と、じつは「A以外の音」が気付かない位の音量で同時に鳴っています。ちなみに、基音のオクターブ音も含まれていて、仮に基音がA3だとすると、第2倍音は1オクターブ上のA4、第4倍音は2オクターブ上のA5、そして第8倍音は3オクターブ上のA6に当たります。こんな具合に、メインの音程の他にいろんな別の音程も同時に小さく鳴っているのです。

倍音の実例
倍音については、クラシック音楽の教科書に詳しい。音楽之友社「楽典 理論と演習」12頁より。

チューナーが音程の判断に使うのは「基音」だけなので、それ以外の「倍音」はチューナーにとって邪魔な音です。基音を強調しながら倍音の発生をなるべく抑える事で、チューニングの精度を上げる事ができる、というわけなんです。

曲によってチューニング針の読み方を変える

しかし、この方法である程度一定の結果を得られるくらいになったとは言え、チューナーの針がカチッと「E」とか「A」とかで止まる事は依然として稀です。

しばらく「E」で止まってから下がってくることもあれば、大きく振り切ってから徐々に「E」に落ち着く場合もあります。

最近のデジタル・チューナーはこういった微妙な音程の挙動も織り込んだ上で、表面的なビジュアルとしてはきっちり針が止まる様に作られているタイプもありますが、ギターの構造を考えると、ゆらゆら揺れている針の方がまだ信ぴょう性がある様にも思えます。

では、一体何を基準に、チューナーの挙動を判断すれば良いのかといえば、それは演奏する曲によって決めます。

テンポが速かったり、短い音符が多い曲を演奏するなら、針の最初の動きが目的の音程に合う事を重視してチューニングします。

そもそも長い音符をそんなに弾くことが無いのであれば、初動音のあと、サステインの部分で多少音程がズレたとしても、被害は少なくて済みます。

逆に、ロング・ノートを多く演奏しそうな場合は、針の初動よりも、その後の「針の落ち着き」に注目してチューニングした方が、曲全体としてピッチが合っている様に聴こえます。

全員でなるべく同じチューナーを使う

また、「ちょっと都市伝説的な怪しい方向に行き出してんな」と思わないで聞いて欲しいのですが、チューナーは個体によってかなりの品質差があります。

ええ、本当ですよ。実際、僕は何個かチューナーを持っていますが、1つのチューナーでかなりシビアに合わせてから別のチューナーでダブルチェックすると、完全にズレてるじゃねーか、っていうコントみたいな事を現実にしょっちゅう経験してます。ひとりで遊んでいる内は別にいいんですけど、レコーディングでしかも仕事となると、さすがに笑ってる場合ではありません。

では、こういった自体を避ける為に一体何ができるかというと、僕が最終的に行き着いた画期的なソリューションは、全員で同じチューナーを使いまわすという変態行動です。

原始的かつある種のキモさを孕んだ発想ですが、シンプルさゆえに一定の効果は保証できます。

そしてできる事なら、一人が同じやり方、同じチューナーですべての弦楽器をチューニングする事が一番確実です。

そこまでやんのかよ、と思われるかもしれませんが、不確定要素の存在が許されない現場においては、ギブソンのロボット・ギターでも導入しない限り、取り得る手立てとしては、これが一番手っ取り早く、現実的です。

AxCent社のチューニングシステム
ギブソン社のRobot Guitarの他に、AxCent社のTuning Systemを導入するオプションもある。サイトの広告にはLed Zeppelinのジミー・ペイジが愛用者として名を連ね、「これ使ったら目ん玉飛び出るぜ」というコメントが本人の腕組写真と共に掲載されている。商品そのものより、この広告の存在の方が目ん玉飛び出る点が唯一の欠点か。

「A=440Hz」に合わせていれば良いとは限らない

また、盲点として、大抵の楽器やミュージシャンは「A=440Hz」に慣れていると思いますが、まれにA=432Hzであったり、441Hzであったりと、440Hz以外のリファレンス・ピッチが採用されているケースがあります。

リファレンス・ピッチを変える理由は、ほとんどの場合「個人の調性的な好み」による様ですが、実例として、たとえばジャズ奏者やオーケストラによっては全体を440Hz以外にチューニングするケースも珍しくはありません。

誰かから受け取った打ち込みデータが実はA=441Hzで作業されていたり、一緒にレコーディングする事になったチェロ奏者がA=432Hzの愛好者であったりという事があるかもしれません。

ピッチで「何かがおかしい」と思ったら、念の為、リファレンス・ピッチについて確認させてもらうといいかもしれません。

polytune2 リファレンスピッチ設定画面
t.c.electronicの「PolyTune」はリファレンス・ピッチを変更する事ができる。画像のディスプレイには「441(Hz)」と表示されている。

「チューニングのズレを活かす」という発想もあり得る

ピクシーズとか、ソニック・ユースというバンドを聴いていると、チューニングってなんだっけ?と思うくらいの瞬間が結構あり、しかもそれがカッコ良かったりします。

じゃあここまでの話は何だったんだよ!という事になりますが、でも、まじめな所、それも現代音楽が持つスリルのひとつです。

実際、ピクシーズのギタリスト、ジョーイ・サンティアゴは、比較的最近のとあるインタビューで「1本、狂った弦があったけど、気に入ったから放っておいた」という様な受け答えをしていて、「ああ、やっぱり確信犯だったのか」と思った事があります。

チューニングを突き詰める術はもちろん知っている必要がありますが、知った上で使わないなら、それも「音作り」の一環です。

もちろん、それをやってのけるには並外れたセンスが必要な事も確かですが、よく考えると、そもそもの機材からしてピッチの怪しい代物はそこら中にゴロゴロしています。身近な所ではストラトのアームもそうだし、名機とされるRoland Re-201(通称「スペース・エコー」)のカッコよさの一つは、そのディレイ音の不安定なピッチだったりします。

「現代音楽で音程の正確性を追求するなんて態度は無粋だ」といわれれば、音楽によってはある意味それもそうかなと思わざるを得ません。

「ルールを知った上で壊す」先にスリルがあるなら、そういう姿勢をとる勇気も時には必要だという事です。

手順③ マイキング

ここまで手順①、②では音作り、チューニングを見てきましたが、手順③ではいよいよ実際に音を収録する段階に移ります。

手順①を読まれた方ならわかると思いますが、これから説明するマイクの選択や立て方は、手順①の音作りにおいて「補完的な」役割を果たします。ですので、実際の作業にあたっては、音作りの段階から具体的なマイクの種類や立て方も含めてイメージ出来ている事が理想です。

それでは、行ってみましょう。

ギターアンプの収録に使われる、一般的なマイクの種類

ギターアンプのキャビネットに立てるもっとも一般的なマイクといえば、SHURE SM57ですが、他にもよく使われるマイクとしては、SENNHEISER MD421Electro-Voice RE-20などがあります。

関連記事:【改造】SHURE SM57の潜在能力を20分で100%引き出す方法

SM57、MD421、RE20は、3本ともダイナミック・マイクで、いずれも現行品として生産されていますので、インターネットやお店で普通に手に入ります。値段はSM57が大体8,000円くらい。MD421は47,000円くらい、そしてRE20がもうちょっと高くて50,000円弱くらいです。RE20はもともと声用に作られたマイクで、スティーヴィー・ワンダーのボーカルに使われたりもしていました。

もっと高価な選択肢としてはNEUMANN U87や、AKG C414などの定番コンデンサーマイク、または、リボンマイクの名器として名高いRoyer Labs R-121や、Beyerdynamic M160もエレキギターの収録マイクとして世界的に愛されています。

U87とC414は共にビンテージ品と現行品でわずかな違いがあるとされていて、現行品はU87の方が今は30万円くらい、C414が90,000円弱くらいです。リボンマイクはどちらも現行品でR-121が15万円くらい、M160が8万円くらいです。

他にも、ギターアンプの収音に優れたマイクはたくさんありますが、この中のどれかを使って「どうにもならない」という事はほぼありません。そういう意味では、選択肢を定番マイクに絞って考える事は、特に最初のうちは近道にもなるのでおすすめです。

補足:ダイナミックマイク、コンデンサーマイク、リボンマイクの違い

念のため、3つのマイク・タイプの基本的な特徴を説明しておきます。

ダイナミックマイク 

  • 比較的重量のある金属コイルが振動して音を伝達する構造。
  • それゆえに、約10kHz以上の音に対して反応が鈍い傾向がある。
  • 湿気、温度変化、衝撃、ノイズに対して頑丈。
  • 駆動に電源(48V電源など)を必要としない。
  • 価格が比較的安価。

コンデンサーマイク

  • ラージ・ダイアフラム型は、オールラウンドな収音特性を持つ事が多い。
  • スモール・ダイアフラム型は、高音の収音性能に優れている事が多い。
  • 湿気や温度の変化に影響を受けやすい。
  • 48V電源などの電源供給が必要。特に、真空管搭載のビンテージモデルは、特注の外部電源ユニットとケーブルが必須。
  • モデルによっては非常に高価。

リボンマイク

  • 非常に薄いアルミホイルが振動して音を伝達する構造。
  • ゆえに、10Hz以上の高域や小音量にも繊細に反応する。
  • ただし、アルミホイルの振動が微小すぎる為、マイクの出力が小さい。
  • 衝撃や環境変化に対して極端に脆弱。大音量に対しての使用も注意が必要。
  • 駆動に電源を必要としない。誤って48V電源などを通すと、一瞬で壊れる。
  • ダイナミックマイクよりは高価。

マイクのスペック表は、唯一の「客観的な」音質に関する情報

ところで、ここまでお伝えしたことを踏まえた上で、注意点として1つ念頭に置いてもらいたい事があります。それは、未知のマイクの音質に関する情報収集についてです。くれぐれも、通販サイトや雑誌の商品レビューを、丸ごと鵜呑みにしない様にしてください。

たとえば、定番マイクを根拠の無い偏見でもって敬遠してしまったり、新登場の高価なマイクが謳う「万能性」を信じて散財してしまったりといった事は、よくありがちな事です。

「レビューは嘘ばかりだ」と言う気は勿論ありませんが、「マイクの音質」ばかりは、絶対に自分で試してから、何かしらの感想なり印象を持つ様にしてください。

もし、未知のマイクに関する知識が必要で、世の中にわずかでもヒントになり得る情報があるとすれば、それはメーカーが公開している「周波数特性の図」などのスペック表です。

SM57の周波数特性
SM57の周波数特性。10kHzを境に極端に感度が低くなっている点と、200Hzより以下が滑らかにロール・オフされている事がわかる。近接効果の影響を受けづらい理由はこのロールオフが大きく関係している。

もちろん、それを見たからと言って100%全て分かるわけではありませんが、少なくとも客観性という点では信頼できるデータです。

ちなみに、先ほど例に挙げた7本のマイクの周波数特性は、本記事の最後にまとめて掲載していますので、よかったら後で見比べてみてください。

ギターアンプ用の最初の1本として、SM57をオススメする理由

「周波数特性の図を参照してください」と言いましたが、「こういう音だと、こういう図になる」という理解が無ければ、いくらスペック表を見ても音の予想を立てる事ができません。

つまり、比較対象として「自分の中で基準となるマイク」を早い段階で見つけておく必要があるわけですが、「どれを基準にすればいいか分からない」という人が居れば、僕はまずSM57をオススメします。

その理由は2つあります。

1つは、「ギターアンプ用マイクとして世界中で最もポピュラーだから」。そしてもう1つは、「安いから」です。

まず、世界で最も使われているという事は、それだけ多くの作品のエレキギターがこのマイクで録られたという事です。という事は、マイクの実験において参照できるサンプルが多いという事になります。

たとえば、誰かしらのアーティスト音源を念頭に音作りをするとして、その収録に使われたマイクがSM57であることが、インタビューなどの情報から判明しているとします。そうすれば、実験中、何かが違うと感じた時でも、「少なくともマイクは同じ」である事が分かっていれば、自動的に不特定要素が一つ減り、その他の要素に注力することができることになります。こういうアプローチを取れる場合が多いという事は、SM57の大きなアドバンテージです。

また、価格が安いという事は、それだけ他の機材にお金を回す事ができます。2本買って片方を改造したり、ステレオマイキングの実験をしたりという事のハードルも下がりますし、そうした実験がしやすければ、マイクに対する理解も早くなります。

関連記事:【改造】SHURE SM57の潜在能力を20分で100%引き出す方法

シングル・マイク・テクニック①「オン・アクシス・マイキング」

では、選んだマイクをキャビネットに立てるやり方に移りましょう。

ギター・アンプのキャビネット内には、1発から数発のスピーカーコーンがあります。キャビネットを覆うメッシュで普段は見え辛いですが、スマホのフラッシュライトのアプリとかで照らすと、スピーカーコーンの場所をぼんやりと視認する事ができます。

このスピーカーコーンの「ど真ん中にある丸い部分(キャップ)」に対して「垂直」かつ「真近く」にマイクを立てると、そのアンプのもっとも明るく、もっともアタックの激しいサウンドを録ることができます。

音源の中心から垂直に伸びる軸に対してマイクを真っ直ぐ立てるこのテクニックは、「オン・アクシス・マイキング(On Axis Miking)」と呼ばれています。

また、マイクとキャビネットの距離については、たまにメッシュに触れそうな位置までマイクを近づける人もいますが、キャビネットの振動でマイクのグリルにメッシュが触れると厄介なノイズになり兼ねないので、個人的には最低でも3、4cmくらいは距離をおいた方がいいと思います。

もし、それ以上スピーカーコーンにマイクを接近させたければ、「キャビネットのメッシュを取り外す」という手もありますが、その場合は、極端な近接効果によって低域が増加することも計算に入れる必要があります。

逆に、スピーカーコーンからマイクを離すほど近接効果による低音は減衰しますが、その分、今度は別のキャラクターを持った「部屋鳴り由来」とでも言うべき中低域が、徐々に入れ替わるようにして現れ出します。どちらが「良い音」という事ではなく、完全に好みの問題です。僕個人としては、キャビネットのメッシュから大体10~15cmくらいの距離で、スピーカーコーンのキャップに対してオン・アクシスでマイクを立てるのを、スターティング・ポイントとしています。

ちなみに、キャビネット内にスピーカーが複数発ある場合、基本的には全ての個体から同じ音がするべきなのですが、現実はそうでもない場合が結構多いので、一応そのことも念頭に置くようにしましょう。

シングル・マイク・テクニック②「オフ・アクシス・マイキング」

さっき言い忘れましたが、アクシスは「軸」という意味です。

音源の中心から垂直に伸びる軸の上(on)にマイクを配置する「オン・アクシス」に対して、軸(Axis)からズラして(off)マイクを配置するのが「オフ・アクシス・マイキング(Off Axis Miking)」です。

オン・アクシスとオフ・アクシスの図
アクシス(Axis)とは「軸」を意味する。スピーカーコーンの真ん中をアクシスとすると、「オフ・アクシス」(右)は軸に対しマイクの位置が右にズレて(Off)いる。

オフ・アクシスでマイクを立てると、オン・アクシスの時よりも、暗く、アタックの丸い音が収録できます。

スピーカーコーンのキャップからどの位「オフ・アクシス」にするかは、好みによって調整します。もちろん、オフ・アクシスの状態で、キャビネットからマイクの距離を近付けたり離したりしても構いません。先ほど述べた、近接効果による低音の増加や、部屋鳴り由来の低域の増加現象は、オフ・アクシス・マイキングでも同じように起こります。

シングル・マイク・テクニック③「アングル」

また、スピーカーコーンのキャップに対してマイクのボディを傾ける方法もあります。

アングル・マイキング
アングル(角度)をどの位にするかについての目安は人それぞれで、好みという以外に決まりはない。

こうする事によってマイクに対して音が斜めに当たり、オフ・アクシスよりもうちょっとだけマイルドな音になります。

傾ける角度によって微妙に音が変わるので、好みの角度が見つかるまで、実験してみましょう。

マイクを2本使う方法

これまで見て来たやり方は、ギターアンプをマイク1本で収録する基本的な方法ですが、マイクを2本に増やす事で、更にレコーディングの幅を広げることができます。

例えば、1本目のマイクをオン・アクシスで、2本目のマイクをアングルで配置すると、オン・アクシスで得られるシャープなアタックに、アングル・マイクから得られるマイルドなふくよかさをプラスする事ができます。

2本のマイクを異なる種類に変えて、相互補完性を追求することもできます。

同様に、2本の異なるマイクをガムテープでまとめ、同じポジションでマイキングするのもアリです。

キャビネットの前面以外の箇所を狙う方法

アンプの前面以外を近接的に狙うテクニックは、特にオープンバック・アンプでは有効な手法です。例えば、アンプの真後ろに1本のマイクを立てて、前面のマイクとブレンドするといった感じで使います。

キャビネット部分の背面から得られる音は、スピーカーコーンに対してオン・アクシスで得られる音よりも随分と暗くこもった音ですが、場合によっては、全体の音に対して補完的な役割を果たすことがあります。

ただ、このテクニックで1つ気を付けなければならないのが、「位相問題」です。同一ソースから方角的に真逆を向いた音を一緒にブレンドする場合、それぞれの波形の向きが真逆のため、ヘタをすれば音が互いに打ち消し合い、使い物にならないほど音痩せしてしまうケースがあります。

これを防ぐためには、片方のマイクが通るプリアンプなりの「フェーズボタン」を押して、一方の位相をひっくり返します。こうして、2つの波形の向きをシンクロさせる事で、音が互いを相殺し合う事態を回避する事ができます。フェーズボタンを押して、実際にどういう効果が得られるかは、位相の状態にもよりますので、音の変化に注意して、最終的な判断をする様にしましょう。

室内残響音をブレンドする方法

他には、アンプからかなり離れた位置に立てたマイクを、アンプの前面に立てたマイクにブレンドする方法もあります。

こうする事によって、「室内残響音」を混ぜることが出来る為、より効果的に空間全体を感じさせるレコーディングをすることができます。

ルームマイクを立てる位置は、好み次第です。アンプから1、2メートル離れた程度でも良いし、部屋の反対側や、天井付近に立てたマイクでも構いません。

狙っている音のイメージ次第で、いろいろな事が考えられるので、先ほどの「位相問題」に注意しながら、ぜひ自分自身で実験してみて下さい。

アンプを複数台使ったレコーディング

「スプリッター」という機材を使えば、ギターの信号を何本かに分裂させることができます。

スプリッターからそれぞれ別のアンプに信号を送れば、1つのパフォーマンスを同時に複数のアンプから鳴らす事が出来ます。

こうする事によって、同じアンプを別の2本のマイクで録るよりも、更にキャラクターの異なる音同士をブレンドする事ができ、より分厚く、より音圧を感じるモダンなサウンドを録ることができます。

レコーディングする際は、あらかじめ1本のモノラル・トラックにまとめてもよし、または、左右にパンを振って、ステレオ・トラックとしてトラッキングするもよし。テクニックの使い方はアイデア次第です。

ミックス不要の音を目指して、音作りからレコーディングまで手掛けよう!

しっかりと音作りをして、チューニングをし、マイクの特性を知った上で数々のテクニックを駆使してレコーディングをする。

大変な様に思えますが、楽器の練習と同じで、やればやるほど自然な反応としてアイデアが浮かんだり、機材に手が伸びたりするようになります。

ぜひ、あなたならではの「基準」を見つけ出し、それを軸足に少しづつレコーディングの幅を広げていってください。

マイクの周波数特性表

最後に、ギターの収音によく使われるマイクの周波数特性表を掲載しておきます。SHURE SM57についてはすでに上に掲載したので、省略します。

sennheiser-MD421 Frequency Response
SENNHEISER MD421(ダイナミック・マイク) 周波数特性
Electro-Voice-Re20 Frequency Response
Electro-Voice Re20(ダイナミック・マイク)周波数特性
Neumann-U87Ai Frequency Response
NEUMANN U87Ai(コンデンサー・マイク)周波数特性
AKG-C414-XL-II Frequency Response
AKG C414 XL II(コンデンサー・マイク)周波数特性
Royer-Labs-R121 Frequency Response
Royer Labs R121(リボン・マイク)周波数特性
beyerdynamic-m160 Frequency Response
beyerdynamic m160 (リボン・マイク)周波数特性