「コミット」「フリーズ」「バウンス」とは
いずれも元あるオーディオ・ファイルに対して、何らかの処理を付け足した新しいファイルを作成するProToolsの機能です。
それぞれの違いを簡単にまとめた表を用意しました。
コミット | フリーズ | バウンス | |
---|---|---|---|
クリップ・ゲイン | 〇 | 〇 | 〇 |
クリップ・エフェクト | 〇 | 〇 | 〇 |
プラグイン(オートメーション含) | 〇 | 〇 | 〇 |
エラスティック・オーディオ | 〇 | 〇 | 〇 |
ボリューム・オートメーション | 任意 | ✖ | 任意 |
ミュート・オートメーション | 任意 | ✖ | 任意 |
パン・オートメーション | 任意 | ✖ | 任意 |
どんな局面でどう使い分ければ良いのか、より詳しくそれぞれの機能の違いを見ていきましょう。
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コミット
クリエィティブな処理への意思決定を明確にするための機能
コミット(Commit)というのは、「何かに対する自分の関与や立場を明確に宣言する」というくらいの意味です。
Pro Toolsでの「コミット」は、フリーズと同じようにCPUの負荷を減らす為の機能でもありますが、フリーズとの大きな違いは、後戻りできる事を積極的に担保した機能では無いという点です。
もちろんアンドゥ機能を使えば、その範囲内で「コミット」された状態から元に戻す事はできますが、基本的には、処理の固定に使う事が前提となっています。
自ら退路を断つ事の有益性
では、なぜいつでも後戻りのできるフリーズがありながら、コミットを使うのか?
それは、処理を固定する事が、作業を次へ進める為の精神的な後押しになるからです。
参考記事:つまらない音楽を量産するプロにならない為に大切な事
つまり、選択肢の多すぎるDAWにおいて、処理の済んだものを敢えて「逆戻り不可」の状態に制限する事で、逆に次の作業が明確になり、結果的に創造性を追い込むことができるという事です。
コミットされたトラックは、エディット満載の状態と比べ、見た目にも非常にスッキリします。CPUの負荷を減らす目的を指摘する人も居るでしょうが、フリーズ状態とコミット状態で、セーブできるCPU負荷の違いはたかが知れています。
元のトラックの扱いについて
デフォルト状態では、「コミット」された元のトラックは、「コミット後」のトラックと置換され、非アクティブの状態で非表示になります。
コミット後、元のトラックをどうするのかは、コミットする前の画面で選択する事ができます。
コミットされる要素
コミットした際に、新しいオーディオ・ファイルに付加される処理は以下の通りです。
・クリップ・ゲイン
・クリップ・エフェクト
・プラグインと、そのオートメーション
・エラスティック・オーディオ
・ボリューム/ミュート・オートメーション(任意)
・パン・オートメーション(任意)
一方、コミット後のトラックに対して、元のトラックから受け継がれる情報は以下の通りです。
・タイムベース
・エラスティック・オーディオで選択したアルゴリズム
・ソロ・セーフ機能
・トラック・インプット/アウトプット
・センド(任意)
・グループ(任意)
※(任意)については、コミット画面で選択する事ができます。
任意のプラグインだけをコミットしたい場合
トラックに複数のプラグインが挿入されている時、上から2つのプラグインだけをコミットして、残りはコミットしたくないという状況があったとします。
そういう場合、コミットしたい最後のプラグイン(この場合、上から2つ目のプラグイン)を右クリックし、「このインサートまでコミット」をクリックします。
すると、指定したプラグインまでがコミット対象となり、指定から外れたプラグインは、コミット後のオーディオ・トラックに挿入された状態で、そのまま引き継がれます。
インストゥルメント・トラックのコミット
コミットする対象がインストゥルメント・トラックの場合、コミット後のトラックは、MIDIノートの代わりにオーディオ・データが含まれた、オーディオ・トラックに変化します。
また、インストゥルメント・トラックのMIDIクリップを、オーディオ・トラックにドラッグする事で、コミット(オーディオ化)する事もできます。
注意しなければならないのは、ドラッグ元のインストゥルメント・トラックがステレオなら、ドラッグ先のオーディオ・トラックもステレオでなければならないという事です。ステレオ・モノラルが合っていない場合は、ドラッグしても、コミットできません。
ショートカット・コマンド
Windows:[Shift + Alt + C]
Mac:[Shift + Option + C]
フリーズ
フリーズ機能は、プラグインの処理が含まれたオーディオと、元のオーディオを置き換える機能です。
「コミット」と大きく違うのは、フリーズされたトラックはいつでも「フリーズ解除」できる所、つまり、固定状態を元に戻す事も機能に含まれている点です。
この事が真価を発揮する例としては、たとえば、同じプラグインを持っていない人とプロジェクトファイルをやり取りしたい時に、トラックをフリーズした状態で送れば、相手は特定のプラグインを持っていなくても、そのプラグインが掛かった状態をモニターしながら、作業を進める事ができます。そして、プロジェクトがまた手元に返ってきたら、フリーズはいつでも解除することができます。
また、もちろん、レコーディングの時だけCPUの負荷になっている別の重いトラックをフリーズしたりする事にも役立ちます。
16bitと24bitの違いとは?レコーディングビット数とノイズの関係性
任意のプラグインだけフリーズしたい場合
フリーズもコミットと同じように、任意のプラグインまでフリーズする事が可能です。
その場合は、フリーズしたいプラグインの上で右クリック→「このインサートまでフリーズ」を選びます。
フリーズされる要素
フリーズで処理される要素は以下の通りです。
・クリップ・ゲイン
・クリップ・エフェクト
・プラグインと、そのオートメーション
・エラスティック・オーディオ
また、フリーズ内容に含まれず、元のトラックから受け継がれる要素
・ボリューム
・ミュート
・パン
・ソロ・セーフ機能
・センド・レベル
・センド・ミュート
ショートカット・コマンド
フリーズのショートカットは、下記の通りです。
選択中のすべてのトラックをフリーズする場合
Windows:[Shift + Alt + Click]
Mac:[Shift + Option + Click]
すベてのオーディオトラック、インストゥルメント・トラック、AUXトラックインプットをフリーズする場合
Windows:[Alt + Click]
Mac:Option + Click]
バウンス
バウンスは、ProToolsセッション内のオーディオを、ProToolsの外側に保存する為の機能です。
オーディオ・ファイルそのものを誰かと共有する際や、ProToolsの外で作業をしたい時など、また、データのバックアップを取っておきたい時など、実用的な例はたくさんあります。
ひとつのトラックだけを保存したいのか、複数のトラックをまとめたいのかによって、「トラックバウンス」と「バウンス」を使い分ける事ができます。
「トラック・バウンス」の対象は任意のトラックですが、「バウンス」はバスやマスタートラックが対象で、複数のオーディオをひとつのオーディオ・ファイルにまとめる事ができます。
バウンスされる要素
・クリップ・ゲイン
・クリップ・エフェクト
・プラグインと、そのオートメーション
・エラスティック・オーディオ
・ボリューム/ミュート・オートメーション(任意)
・パン・オートメーション(任意)
※(任意)については、コミット画面で選択する事ができます。
バウンス後にインポート
バウンス前のダイアログで「バウンス後にインポート」を選択すると、バウンスしたファイルを、そのままプロジェクト内に呼び込むことができます。
しかし、コミットの様に、元のトラックのセンドなどの設定を受け継ぐことはできません。
ショートカット・コマンド
トラックバウンス
Windows:[Shift + Ctrl + Alt + B]
Mac:[Shift + Command + Option + B]
バウンス
ウィンドウズ:[Ctrl + Alt + B]
マック:[Command + Option + B]