Addictive Drums内の設定だけで「Addictive Drums感」を消す方法

値段も安くて動作も軽くて使い勝手も良いAddictiveDrums。だけど、もう少し音が自然だったらなぁ…と思ったことはありませんか?今回は外部プラグイン一切ナシで「Addictive Drumsっぽさ」を徹底的に排除する方法をお伝えします!これさえ知れば、もう何万円もするドラム音源をチェックする必要はないかも!?

下準備 :グルーヴの選択

Addictive Drumsではキットとグルーヴのプリセットを自由に組み合わせることが出来ます。今回キットはデフォルトの「Startup」のままで、グルーヴだけプリセットから何か選ぶことにします。

まずAddictive Drumsを立ち上げると、「KIT」画面が表示されます。画面右上のタブから「BEATS」を選択しましょう。

「BEATS」タブを選択している状態。

今回は「Funk_Swing_Beat_005」というグルーヴを使用することにします。BPMは遅すぎず速すぎず、ゴーストノートも含まれているので、弱音と強音の差もよく判断できそうです。下準備はこれで完了です。

そもそもAddictive Drumsっぽさって何?

グルーヴを選択したところで、まず音を聴いてみましょう。キットはデフォルトの「Startup」のままにします。

全体的にパワフルですが、特にスネアの残響音にいかにもルームシミュレート感のあるキャラクターを感じますよね。よく「Addictive Drumsっぽい」と言われてしまうのは、特にこういった残響音にみられるデジタル的なニュアンスだと思います。

Addictive Drumsが内蔵サンプルをどう制御しているのかは分かりませんが、ドラムに限らず、サンプラー音源系のソフトにほとんど共通して存在するネックが、こうした「部屋鳴り(ルーム音)の人工っぽさ」です。いわば、これがサンプラー音源の限界でもあります。

部屋鳴りのデジタルシミュレートの技術的な限界

少し脱線しますが、Addicitive Drumsを含む大抵のサンプラー音源の弱点は部屋鳴りです。そもそも部屋鳴り音というのはマイクを音源から離して録った音なんですが、音源から離れて収録する分、マイクをピッタリ近づけて収録した音像よりも、床や天井の材質、壁の密度、空気の状態などがより反映され、複雑かつ繊細な情報を多く含んだ音となります。これの厳密なシミュレートが、技術的にものすごく難しいのです。

よくルームシミュレートタイプのリバーブが単体で売られていますが、高価な上に、あくまでも「そういうエフェクトとして」使われる事が普通です。たとえば、「ホール」設定のリバーブを使うとき、デッドな環境で録った音が実際にホール録音された音そっくりに変貌するなんて事は誰も期待していません。あくまで「ホールの残響音をシミュレートした、それっぽい音」という人工的な部分も含め、特殊効果として使われているのです。たとえば、商業スタジオには高価なレキシコンリバーブがありますが、「レキシコンの音」とよく言われるのは、まさにそういう性質のことです。

そのことを考えると、部屋鳴りを擬似再現することの技術的な限界が何となく想像できるかと思います。それでも最近のサンプラー音源は値段を考えればすばらしい音質だと思いますが、やはり生と比較するとどうにもならない違いはあります。Addicitve Drumsの場合はパワフルなライブ感(生感)を出すために人工的な残響音がデジタル的に強調され過ぎている傾向があります。はじめて聴くと一見派手なのですが、それがそのままこのソフトのクセでもあるので、こうした人工要素をなるべく排除していくことが今回の作業のキーとなります。

関連記事:外部プラグイン不要!AddictiveDrums 「2」を生ドラムに近づける音作り

1.エフェクトをオフにする

ではさっそく取り掛かりましょう。効果の高い箇所から順に手がけます。右上の「EDIT」タブを押すと各ピースの編集画面が表示されますので、選択してください。

エディットタブを選択した状態。

この状態で、ページ下部のフェーダーの真上にある「Kick」「Snare」などのボタンを押すと、そのピースが編集できる様になります。まずは右から三番目にある「Room」を選択しましょう。

「Room」トラックを選択した状態。

画面中段に縦書きで「Channel Inserts」と書かれた欄の左側から順に「Compressor」「EQ」「Send FX」がオンになって点灯しています。それぞれの項目にあるオレンジ色や青白のボタンを押して、三つともオフの状態にしたら、「KIT」タブの左にある再生ボタンを押して、再生してみましょう。

わずかですが、いわゆるAddictive Drums感がうすれた様に聴こえます。特にEQによる高域のブーストがなくなったおかげで、残響音を一層際立たせていたギラギラしたデジタル感がなくなり、落ち着いた音になっています。

この調子で「Overhead」から「Kick」まで、すべてのエフェクトをオフにしましょう。パワフルさが消えて音は暗くなりましたが、より自然な質感に近づきました。

2.スネア

それでは各ピースの微調整をしていきましょう。まず「EDIT」画面でスネアを選択し、画面上段から手がけていきます。最終的に下の画像の様な設定にします。

スネアのエディット画面。
“Snare” ■Pitch – Start:-3.0ms/Hold:0.0ms/release:82.5ms ■Volume – Attack:0.0ms/Decay:5.0ms/Sus.Lev.:0.00ms/Sus.Time:0.0ms/Release:691ms

「Overhead」「Room」マイクボリューム

一番左にスネアのイメージをはさむ形で丸いノブが二つあります。これはオーバーヘッドとルームのマイクがスネアを拾う音量を調整するためのノブです。オーバーヘッドマイクもルームマイクも、本来は部屋の空気感を収録して「リアル感」を出すために重要な要素ですが、サンプラー音源の場合は前述の理由で逆効果になる場合が多いので、両方とも9時くらいまで減らします。

「Overhead」「Room」パン

その上に「Pan」とかかれたバーは、オーバーヘッドとルームチャンネルのステレオイメージの中で、スネアが左右どの位のステレオ感をもって鳴ってほしいのか微調整する部分です。少しでも音像をハッキリさせたいので、パンは中央のまま、ステレオイメージでの広がりは限りなく狭く設定します。

Pitch

ピースのチューニングを上げ下げ出来ます。今回は少しだけチューニングを下げました。

Volume

ピースのアタックやリリースをシンセの様にコントロールできる便利な機能です。ここで不要な残響音を不自然になるギリギリまでばっさりカットしてしまいます。

Filter

不要な帯域にハイパス、ローパスを設定できます。スネアに関して、今回は特に触らなくてもいいでしょう。

スネアのエフェクト欄。
“Snare” ■EQ – Low:476Hz/-24.00dB/Q:7.59 Middle:741Hz/-23.52dB/Q:10.00 High:1203Hz/-13.50dB/Q:3.98

画面中段のエフェクト欄にうつります。最終的な設定は下記の様にします。

Buzz

一番左の「Buzz」はスネアワイヤーや、他のキットピースとの共鳴音の量を調整できる箇所ですが、余分な要素はいらないので今回は設定をゼロ(?)にします。その下のツマミは、スネアトップとスネアボトムのマイク音量の比率を調整するためのもので、中央よりかなりトップ寄りにセットしました。

Mics(Top/Bottom)

同じスネアでもトップマイクとボトムマイクで音の性質はぜんぜん違いますが、一番の違いは音の立ち上がり(アタック)です。スネアトップは「パン」としたまとまったアタックなのに対して、一般的にスネアボトムはアタックがバラッとした場合が多いですが、これはスネアワイヤーの揺れる音がアタックに寄与している為です。通常のレコーディングでもスネアトップに対して混ぜると、鳴りが良くなったり、音の明るさが増したり、いろいろな効果を期待することができます。

ただし、足せば必ず良くなるというものでもなく、逆に計算なしで扱うと位相問題などでかえって音痩せの原因にもなりかねません。たとえば、ストーン・ローゼズを手がけた英国のプロデューサー/エンジニアのジョン・レッキーは、問題を増やすだけだという理由から、ほとんどスネアボトムにマイクは立てない事で知られています。

今回の場合は少しだけ混ぜたらスネアトップだけよりもやや自然に聞こえたので、わずかにブレンドする設定にしました。

イコライザー

ディストーションとコンプレッサーはオフのまま飛ばして、最初にEQを設定します。まず、一度スネアをソロにしてよく聴いてみましょう。何か「ホーン」という筒をたたいている様な、ガラス瓶に息を吹き込んでいるような、妙な音がしませんか?

慣れていないと聞き取れないかもしれませんが、スネア本来の音を邪魔するホンキーな鳴りが混じっています。帯域を特定するために、まずQを最大値(10)にして、ブーストしながら邪魔な音の居場所を探し出します。結果、476Hz、741Hz、1203Hzで不要な音が鳴っていることがわかりました。音量を下げたら、それぞれの帯域を強調した状態を聴いてみてください。

問題の周波数を特定したら、Qをやや広めに設定してこれらの帯域をバッサリとカットします。繊細さを追求する作業と違い、基本的にマイナスをゼロに戻す作業において遠慮は禁物です。10dBでも20dBでも、必要なだけザクザクカットしましょう。

コンプレッサー

EQが終わったらコンプレッサーをオンにして、設定を軽めに修正します。具体的には、レシオを3:1くらいにして、リリースを早くしました。つぶし具合(ゲインリダクション)はかなりマイルド目で、大きな音の時だけ一時的にわずかにコンプが掛かる程度です。ほとんど潰してないといっても良いくらいの設定です。

ディストーション

これはProToolsでいうところの「Lo-Fi」プラグインに似ていますね。ビットを落として原音に混ぜる事で、倍音豊かなあたたかい音にしましょうという発想です。先ほどEQでバッサリカットした分コシのない音になったので、「Crunch」に設定して少しあたたかみを足します。「Amount」は70%、「Mix」は40%くらいです。Rangeは画像を参考にしてください。

スネアの調整は以上です。

3.キック、ハイハット、オーバーヘッド、ルーム

同様に、他のチャンネルも調整していきます。グルーヴにトムは含まれていないので、今回トムはエディットしません。その他のピースについての設定は画像を参考にしてみてください。

キックのエディット画面。
“Kick” ■Volume – Attack:0.0ms, Decay:5.0ms, Sus.Lev.:0.00ms, Sus.Time:2.7ms, Release:454ms
ハイハットのエディット画面。
“HiHat” ■EQ – “Low”:1320Hz/-15.36dB/Q:6.92 “Middle”:3359Hz/-24.00dB/Q:1.35 “High”:6416Hz/-18.17dB/Q:8.91
オーバーヘッドの編集画面。
“OverHead” ■EQ – Low:125Hz/-24.00dB/Q:1.86 Middle:369Hz/-24.00dB/Q:3.02 High:1014Hz/-24.00dB/Q:1.78
ルームマイクの編集画面。
“Room” ■EQ – Low:89Hz/-6.00dB/Q:0.13 Middle:470Hz/-24.00dB/Q:2.31 High:1813Hz/-10.23dB/Q:1.23

ここまでの設定が済むと不自然な人工感はかなり減りますが、同時にパワフルさも相当ダウンしますので、次はそれを補う作業をします。

4.「BUS」チャンネルを使ったパラレルコンプレッション

まず、Roomチャンネルの左隣にある使われていない「Bus」というチャンネルに注目してください。

バスチャンネルを選択した状態。

このチャンネルの特徴は、自分とMaster以外の全チャンネルの音をまとめて独自にエディットすることが出来ることです。今から「Kick」「Snare」「Overhead」「Room」のチャンネルの音をこのBusに送って(Send)してから、まとめてコンプレッサーとEQを掛けます。

Busチャンネルの上に「Bus Sends」と書かれているのが分かりますか?

バスへのセンド量を示すゲージ。

各チャンネルの上部にあるこのゲージを使って、Busにsendする分量を決められます。画像を目安にスネアは全開、キック、オーバーヘッド、ルームは60%から70%くらいでそれぞれ調整してください。

中段のChannel Insertsを有効にすると、今センドした音全体に対して、まとめてエフェクトが掛けられますので、下の画面を参考に設定してみてください。ポイントはコンプをかなり深めにかける事です。

バスチャンネルのエフェクト設定。
“Bus” ■EQ – Low:147Hz/-24.00dB/Q:3.80 Middle:303Hz/-12.44dB/Q:1.78 High:737Hz/-9.23dB/Q:2.76

これはパラレルコンプというテクニックで、フォトショップのレイヤー機能によく似ています。レイヤー単体で見るとやりすぎでも、混ぜる割合を調整して使えば良い効果が期待できます。パラレルコンプも同じで、かなり深く処理した音を原音にうまく混ぜることで、原音の自然なニュアンスを保ったまま、パワフルさを上げることができます。本来はパラレルコンプレッションのチャンネルを複数用意して、少しずつ混ぜたりして使うのですが、Addicitve DrumsにはBusチャンネルがひとつしかないので、このチャンネル一本をかなり大胆に混ぜました。ちなみに今回は使いませんが、好みで「Tape」や「Sat」を使ってBusチャンネルの音をさらにアグレッシブにすることも可能です。混ぜたときの音さえ良ければ、パラレルコンプチャンネルを単体で聴いたときにどれだけ不自然でも、まったく気にする必要はありませんので、ぜひどんどん実験してみてください。

これで全チャンネルの音質調整は完了です。下の画像を参考に、各チャンネルの音量バランスやパンを調整したら、音を聴いてみてください。

各フェーダーの参考画面。

5.リバーブ

最後の仕上げに、薄くリバーブを掛けます。意味合いとしては、もとのAddictive Drumsの様に部屋鳴りを演出するのではなく、ドラムキット間や他の楽器とのなじみを良くするための糊の様な役割で使用します。Photoshopで言うところの「ぼかし」みたいな処理です。

まずはリバーブの設定画面を開きましょう。どのチャンネルの画面でもかまいませんが、中段「Channel Inserts」の右端に「Send FX」という欄がありますので、「Edit」をクリックしてください。

リバーブの設定画面。
“Reverb 1” ■EQ – Low:32Hz/-24.00dB/Q:0.73 High:17016Hz/-24.00dB/Q:0.56 “Reverb 2” ■EQ – Low:20Hz/-24.00dB/Q:0.49 High:20000Hz/-24.00dB/Q:0.47

二つのリバーブと、それに対するEQの設定できる様になっていますので、Reverb1には「Plate」を、Reverb2には「Ambience」を選びました。Plateは音自体の「質感」、Ambienceは音の周りの「空間」を演出するのにぴったりだと思います。それぞれ少しずつ使い分けて、ドラムキットが他の楽器とよくなじむようにしましょう。使う分量の設定は、busの時と同じように、各チャンネルの上部にあるゲージで調整できます。これも上の画像を参考にいろいろと試してみてください。

これで完成です。Addictive Drums特有の派手すぎる出音とは違い、単体で聞くと地味だけど、他の楽器と混ぜた時にしっかり通る生っぽい音質になったかと思います。

Addicitive Drumsの長所を活かそう!

今回はStartupキットで行いましたが、いろいろなキットに対して応用すれば、「いかにもAddictive Drums」というマンネリから少しは離れて、フレッシュな気分で作業が出来るかと思います。

これをもとにさらにDAWで調整することもできますが、時間と手間を考えると個人的にはAddictive Drums内だけでの調整にとどめておくのが一番だと思います。とことん懲りたい方もいらっしゃるかと思いますが、やはりもとがサンプラー音源ですので、生ドラムにどれだけ近づけようと越えられない一線が確実にあります。あくまで手軽さを軸に考え、クオリティを追求する情熱は本番の生ドラムレコーディングまで大切にとっておきましょう。

とはいえ、値段やプログラムの安定性や軽さを考慮すれば、Addictive Drumsは数あるドラム音源の中でも間違いなく優良なソフトですし、デモ作成には十分すぎる機能を備えています。デモ製作をスムーズに行うための強力な味方になってくれるはずですので、ぜひ使い倒してみてください。