スネア・ドラムを洋楽みたいな音質にチューニングするコツ

「重い」、「軽い」、「乾いた」、「ウェットな」、「泥臭い」などなど、スネア・ドラムを表現する言葉はたくさんありますが、ちょっとしたチューニングのコツで、同じスネアとは思えないほど、音質を劇的に変える事ができます。スネアのシェルやヘッドの関係性も考えながら、総合的に好みの音を生み出す方法を見ていきましょう。

スネアのチューニングはカンタンです。

部活の先輩がやたら鼻にかけるもんだから、キーを適当に回して、「チューニングしたフリ」状態に陥っていませんか?ぼくの学生時代は、二言目には「チューニング」と言いたがる意識高い系が、周囲に幅を利かせていました。

ドラムのチューニングは、一歩間違えると不自然な反響音やビビリが生じたりして、初心者は何かと敬遠しがちですが、コツさえ理解してしまえば、別に知ってるからと言って偉ぶるほど大層な話ではありませんよ。

むしろ、初心者の内から「常識」として身に着けておけば、音に対する感性が育つため、その後の練習もしっかりとはかどります。10インチであろうと14インチであろうと、どんなサイズのスネアドラムも簡単にチューニングできるコツがありますので、これを機会にやり方をしっかり習得して、クチだけ野郎のパイセンをチューニングしてやりましょう◎

参考記事:泥臭いアメリカーナ・ドラムを録るための5つの手順

ステップ1:ボトムヘッドをタイトに絞め上げる

まず何より最初にすべき事は、ボトムヘッドのテンションをかなりきつく縛り上げる事です。トップヘッドはとりあえずユルユルでも外しといても構わないので、とにかくまずはボトムヘッドのテンションを張り上げましょう。

具体的には、ユルユルのただヘッドが乗っている状態から、各ボルトを大体3周半から4周を目安に締めていけば、締めすぎてフープやヘッドを破壊する事も無いのでちょうどいいかと思います。ボトムヘッドのヘリを指ではじいてみて、「コーン」という小気味いい音がすれば、それで完了です。

スネアのボトムヘッドチューニング
まんべんなくテンションを調整するのは割と面倒で難しいが、チューニングキーを2つ使う事で、難易度を劇的に下げる事ができる。時間短縮にもなる上に、写真のようにヘッドの中心から対象位置にあるボルトを2本ずつ時計回りに絞めていけば、締め忘れの防止にも役立つ。

ボトムヘッドのテンションが重要な理由

なぜボトムをそこまでタイトに仕上げるのかというと、ボトム・ヘッドのテンションが張るほど、スネアワイヤー(スナッピー)の共鳴が良くなるからです。これは最終的なチューニングの高低に関わらず、そうなります。スネアワイヤーの共鳴が良ければ、それだけ演奏の繊細さが音に反映されますし、特にゴーストノートなどの細かなニュアンスもしっかりと表現可能になります。

ボルトを締める際は、テンションがなるべく均等になる様に心がけてください。ドラムキーを2本使えば、テンション調整の均一化に対するハードルがかなり下がるので、オススメです。ヘッドの中心から対象にあるボルトを2つずつ均等に締めていけば、締め忘れも防げる上に、時間も2分の1に短縮されるので、一石三鳥です。

ドラムキーは1個300円台で買えます。バイトの給料が入ったら、速攻で4個くらい買いに行きましょう◎

ステップ②:トップヘッドを緩めに絞める

ボトムをしっかり締めた状態で、トップヘッドはダルダルのままでいいので、ちょっと叩いてみましょう。ほぼ乗っているだけの状態にも関わらず、それなりに存在感のあるファットな「鳴り」が実感できるはずです。ここからトップを調整して、更に良くしていきます。

ファンクなどのビートで聴けるような「軽やかな」、「高い」、「ペンペン」のスネアトーンを目指すのであれば、トップヘッドはほどほどに締めます。なるべく全体的に均一になる様に、先ほどのドラムキーを2本使うやり方で締めていきましょう。目安はボトムのテンションの1/3くらいです。

ブルースの様な「泥臭い」、「ずぶとい」、「深い」、「低い」チューニングにしたいのであれば、「ファンク仕様」の状態から各ボルトを少しずつ緩めます。1/4周ずつくらい緩めていって、好みの音色に調節していきましょう。

音階を必要以上に意識する事は時の無駄

よく「楽曲のキーにスネアのピッチを合わせろ」ふうの話がまことしやかに語られますが、ジャズでもない限り、現代音楽でドラムに期待されるのは、十中八九パーカッシブな打撃音です。タムなら音程の微調整もあり得ますが、ことスネアに関しては、音階よりもアタックの質により注意を払った方が考え方として建設的です。

リムショットなどの残響音が長い音をメインに演奏する場合も同様で、ストレイナーを上げた時に、曲全体を通して「心地よい」と感じるポイントを感覚ベースでチューニングしていくべきです。

結果、たとえ楽曲のキーと数学的に合ってなかったとしても、芸術的にそれを良いと思ったのであれば、意に介する必要はありません。

シェルのサイズと音質の関係

ドラムシェルのサイズですが、一般的なイメージは、「小さく浅い=軽く高い音」、そして、「大きく深い=重く低い音」という感じだと思います。

決して間違っているわけではないのですが、実際にチューニングをし出すと、割とどんなスネアでもチューニング次第で高い音から低い音までいろいろな音が出せることに気付くと思います。

比較的小さなスネアを低くチューニングした時の、思った以上にパワフルな感じや、逆に大きな寸胴のスネアを高いピッチにチューニングした時のまろやかな音の伸びは、実験して自ら経験するしかありません。その内、「このちっこいスネア、こんなに音深いの?」とニヤける瞬間が、きっとあると思います。研究してください。いずれの場合も、まずボトムヘッドのテンションはパツパツでスタートです。

では具体的に、サイズが変わると音質以外にどんな違いがあるのかと言えば、大きく変わるのは「音量」と「音の情報量」です。当然ですが、サイズの大きなスネアほど、大きな音がします。また、大きなボディほど複雑な音響特性を持ち、それだけ倍音もより多く発生する傾向があります。

スネアのサイズとで音の関連性
スネアのサイズがそのままイメージ通り、音質に反映されるとは限らない。環境によっては、深く重い音を出すのに、小さなスネアの方が適するケースも多々ある。

この点に注意しなければ、大きなスネアを使っているのに、結果的にボディの小さなスネアよりも小ぢんまりとしてしまったなどという結果に陥ることがあります。たとえば、小さなスタジオ空間にも関わらず、大きなスネアをバシバシ叩いても、スネアの生み出す複雑かつ甚大な音響特性を生かしきれずに、音が部屋中に飽和した結果、聴感的には逆に小さな音に聞こえることが多々あります。

音作りの際にはこうした事も考慮に入れる事で、より目指すべき音に一歩近づくことができます。

スネアのパーツチャンジはコスパ最強

見て来たように、ドラムのチューニングは簡単作業で音作りに絶大な効果を及ぼす大変奥の深い工程ですが、その他にも、音作りに有用な手段はいっぱいあります。

チューニングには直接関係ないので触れませんでしたが、スネアワイヤー(スナッピー)の交換や、ヘッドの交換をすると、見違えるようにスネアの音が激変します。ヘッドに関してはメーカー毎に色々なものが出ており、より音が軽やかになるものから、音がデッドになるものまで、さまざまです。

EVANS社のスネア用ヘッド「Genera Dry」
EVANS社から出ているスネアヘッド「Genera Dry」。特殊な表面コーティンングにより、ドライでありながらもヴィンテージ感溢れる鳴りを醸す、非常に秀逸なドラムヘッドだ。

スナッピーも、本数の多いものに変えたり少ないものに変えたり、スネアドラムのパーツチェンジは少ない投資で大きな見返りを得ることが出来る、きわめて美味しい分野です。

他にも、GAPとかで売ってる女子向けの夏の薄いカーディガン(?)は、スネアのミュートに最高の素材です。また、クラシックな手法ですが、布製ガムテープを張り付けるのも、安くて手軽な割に、かなりの効果を得ることができます。

特に、レコーディングを念頭に置いている場合は、録りの段階でカッチリ音作りしてあるのと、適当に録ったドラムをミックスでこねくり回した結果とでは、はっきり言って音のクオリティに雲泥の差が生まれます。

ぜひ普段から意識して、積極的な音作りを心掛けてください◎